チャンピオンって誰?ではなく、権限・行動・リスク負担から考えるエンプラ営業の本質

エンタープライズ営業で「チャンピオンがいない」と感じたら読む。推進者・運用当事者・情シスを「権限/行動/リスク負担」で分解し、要件定義までを前に進めるための設計図を整理します。

エンタープライズ営業で、案件が前に進まないとき。現場の営業からはこう言う言葉がよくでます。

  • 「チャンピオン弱くて」
  • 「推進者に力がなくて」
 もちろん、そういう要素が“ゼロ”とは言いませんが、この議論を繰り返して意味はありません。なぜならエンプラは、特定の“1人の強い味方”に依存して勝つゲームではなく、社内の合意形成が回り始めた時にだけ前へ進むゲームだからです。本記事は、この合意形成ゲームにおいて、「検討開始〜要件定義まで(いわゆるRFI→RFPに寄せるフェーズ)」に限定して話します。
推進者(検討の場を立ち上げ、会議を回す人)
運用当事者
(“回る/回らない”を握る人)
情シス
(“通す条件”を握り、Noが出せる人)
(本来は、法務担当や購買担当者、役員、その他がいますが、登場する人物を増やしすぎると、かえって混乱するため、要件定義フェーズまでに絞って整理していきます)I

 だから「チャンピオンって誰?」というラベルの探し方や、「推進者が誰かだけ」を追う見方だと、途中から必ず混乱します。なぜなら、推進者も、運用当事者も、情シスも、それぞれ別の意味で“重要”だからです。つまり、エンタープライズセールスの仕事は「チャンピオンは誰か」を当てることではなく、「お客様の中で“どのように役割分担”が成立しているか」を見抜き、「顧客の中で検討が進むための支援をすること」です。この記事では、「チャンピオン」という便利な言葉に頼りすぎず、登場人物を 権限・行動・リスク負担で捉え直すことで、エンプラ攻略の設計図を整理します。特に、今回はは 検討開始〜要件定義(RFI→RFPへ寄せる手前) までにフォーカスして整理していきます。

なぜ「チャンピオン探し」が混乱するのか

 私もエンプラ営業を始めた頃、ノウハウ記事やエンプラセールスの本を読み漁りました。すると、どこにも必ず出てくる言葉が「チャンピオン」です。多くの教材は、だいたいこう言います。

「チャンピオンを探してグリップしろ」

もちろん、間違ってはいません。チャンピオンは重要です。ただ、現場でその通りにやってみると、ある日こうなる。
「…あれ?チャンピオンって1人なんだっけ?」
「チャンピオンをグリップしてたはずなのに、失注したんだけど…?」
この経験を重ねるうちに、誰もが同じ壁にぶつかります。チャンピオンは複数存在するという事実です。推進者も、運用当事者も、情シスも、(要件定義以降は)法務も購買も、全員がそれぞれの立場で「重要人物」になり得る。するとどうなるか。

  • 推進者もチャンピオンっぽい
  • 情シスもチャンピオンっぽい
  • 運用当事者もチャンピオンっぽい(現場が回る/回らない)
  • すると「結局、誰がチャンピオンなの?」が分からなくなる

こが「チャンピオン探し」の混乱ポイントです。“重要人物”が複数いるのに、ラベルが1つしかないから、言葉が破綻します。さらに混乱を加速させるのが、エンプラの意思決定が「会議で決まる」のではなく、営業がいない場所での“事前すり合わせ”で概ね決まっているという現実です。営業が同席する会議は、しばしば“最終確認の舞台”であり、実態としては 内部の会議体が回り始めた時点で勝負が決していることが多い。だから、チャンピオンの“人探し”に走るほど、論点はズレます。あなたが見るべきは「誰がチャンピオンか」ではなく、

  • お客様の中で、誰が何を担っているか(担えるか)
  • 会議体で、論点が共有され、材料が揃い、次アクションが決まっているか

この構造です。

「誰がチャンピオンか?」を特定することは重要ではない

 ここからが本題です。「じゃあチャンピオンは無視していいのか?」というと、もちろん違います。チャンピオンは必要です。ですが、あなたの仕事は “チャンピオンという役名の人”を当てることではありません。あなたの仕事は、もっと具体で再現性があります。

営業が介在しなくても、関係者同士が議論できる状態を作ること

エンプラでは、営業がいない場所で、こんな会話が起きています。

  • 推進者:「業務的には必要。運用はこうしたい」
  • 運用当事者:「現場は回る?例外はどうする?誰が持つ?」
  • 情シス:「セキュリティ・連携・ID管理がこの条件ならOK」

この“内側の会議”が回り始めたとき、案件は進みます。逆に、営業がいつまでも全会議に同席し続けている案件は危険です。理由は単純で、顧客の中で会議体が自走していない可能性が高いからです。
ここで誤解してはいけないのは、「営業が同席している=重要」ではないこと。重要案件や社内説明の性質上、営業同席が必要な場面は当然あります。そして営業としては、できるだけどんな会議が行われているか知りたくなりますし、参加したいと思うものです。しかし本質はその逆。危険なのは、営業がいないと次アクションが決まらない状態が続くことです。これは、内部で論点が共有されず、材料が揃わず、次のToDoが決められていないサインです。
では、営業がいない場で議論が回る状態とは何か。定義するとこうです。

論点が共有されている(誰が何を懸念しているかが見えている)
意思決定に必要な材料が揃っている(セキュリティ、運用、例外、体制、スコープ)
次アクションが決まっている(担当・期限・次の会議体が決まる)

これが回り始めた瞬間、案件は「RFI(情報収集)」から「RFP(要件確定/比較評価)」へ寄っていきます。
逆に、会議が増えても①②③が回らなければ、検討は“会議のための会議”になります。

つまり、営業がやるべきことは「チャンピオンを探す」ことではなく、
「①②③が回る会議体を顧客内に成立させる」状態をいかにして営業として作り出せるかに全力を注ぐ必要があります。
そのために必要なのが、次の視点です。

登場人物の「権限・行動・リスク負担」を構造化する

 営業がいない場で、ちゃんと会議が機能している状態は上記の①②③で言語化したとおりです。そうすると、やっとチャンピオンとは?という抽象的な概念から具体的な登場人物を定義しやすくなってきます。当然ですが、営業がいない場所で①②③をしっかり回していこうとするとお客様の検討チームの中に明確に役割分担が生じることになります。そして、検討のフェーズ「検討開始〜決裁〜導入」までにおいて、顧客側の役割分担がどうなるかということも考慮にいれておくと、顧客の「検討」というものをより構造的に捉えることができます。ここでは、気付き〜情報収集〜検討立ち上げ〜要件定義までを構造化します。(要件定義以降は購買担当者や法務も入ってきます)。
要件定義までで起きていることは、超シンプルに言うとこれです。

推進者が「検討の場」を立ち上げる
運用当事者
が「回る/回らない」を決める(拒否権発動)
情シス
が「通す条件」を決める(拒否権発動、しかもめちゃ強力な拒否権)

 この三者のすり合わせが進むほど、案件は RFI(情報収集)→RFP(要件確定) に寄っていくことになります。これを明確に抑えておきましょう。その上で、推進者と運用当事者と情シスの権限と行動、リスク負担を理解しておくとチャンピオンという抽象度の高い定義ではなく、具体的に何が案件進捗に寄与し、逆にボトルネックになりやすいのか?を名確認理解することができるようになります。

推進者(現場PM)

  • 権限:中(“検討を走らせる権限”はあるが、予算決裁はないことが多い)
  • 行動:高(会議設定、論点収集、要件整理、関係者招集)
  • リスク負担:中〜高(要件定義の失敗=炎上の主担当になりがち)

運用当事者(実務者)

ここが一番重要です。しかも声が大きくなりやすい。これは“性格”ではなく、運用の負債の結果や責任をかぶるのが当事者によりやすいためです。なので、運用当事者はリスク回避行動を選択しやすい保守派に回る人が多い傾向があります。

  • 権限:形式上は低いが、実態はそれなりに高い
  • 行動:高(現行業務の事実提供、例外の洗い出し、テスト、教育)
  • リスク負担:高(導入後の二重運用・問い合わせ・炎上の一次受け

運用当事者は、「改善賛成派」「反対派」「沈黙派」「ルール重視派」、「フォロワー派」が存在します。ここに対して、細かくフォローしていくことが案件の推進に大きく影響します。

情シス(セキュリティ/連携/ID)

  • 権限、:高(セキュリティリスクや運用上の技術的な理由で簡単に“No”が出せる。要件定義における最大のゲートになりやすい)
  • 行動:中(資料要求・レビュー・条件提示。自分が手を動かす量は限定的)
  • リスク負担:中(事故った時の責任が重い=守りが強い)

まとめ

 エンタープライズ営業が止まる原因は、「チャンピオンがいない」ことではありません。止まるのは、お客様の中で“検討を前に進める役割分担”が成立していないからです。要件定義までに絞ると、見るべき登場人物は3者だけ。推進者(検討を回す)/運用当事者(回るかどうかを決める)/情シス(通す条件を決める)。この3人を、ラベルではなく**「権限・行動・リスク負担」**で捉え直すと、案件が前に進まない理由は一気に可視化されます。

 推進者は会議を立てて論点を集める“回す人”で、要件定義が崩れた時の炎上を背負いやすい。運用当事者は形式上の権限は弱くても、二重運用や問い合わせの一次受けを担うがゆえに、実態として強い影響力(ソフトVeto)を持つ。そして情シスは、技術・セキュリティの観点で“No”が出せる最大のゲートになる。この構造を押さえた上で、運用当事者の中にいる「賛成派/反対派/沈黙派/ルール重視派/フォロワー派」を丁寧に見立て、誰の負担が増える設計になっていないかを先に潰す。これが、要件定義をRFIからRFPへ進める最短ルートです。

 結局、エンプラ営業の仕事は「チャンピオンを当てる」ことではなく、営業がいない場でも、推進者・運用当事者・情シスが同じ論点を共有し、必要な材料を揃え、次アクションを決められる状態を作ること。この状態をつくれた案件だけが、自然に前へ進みます。